ゆずり葉
学校の庭にゆずり葉があります。ゆずり葉の名前は、春に枝先に若葉が出たあと、前年の葉がそれに譲るように落葉することから名づけられました。親が子を育てて家が代々続いていくのと同じように見立てて縁起物とされ、正月の飾りや学校の庭木に使われています。自分が小学校で教えていた頃、卒業前に次のような詩が教科書にありました。ちょっと長い詩ですが、心にじーんと染みるものがありますので紹介します。
ゆずり葉 河井 酔茗
子供たちよ。
これはゆずり葉の木です。
このゆずり葉は
新しい葉が出来ると
入り代わってふるい葉が落ちてしまうのです。
こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちをゆずって――。
子供たちよ
お前たちは何をほしがらないでも
すべてのものがお前たちにゆずられるのです。
太陽のめぐるかぎり
ゆずられるものは絶えません。
かがやける大都会も
そっくりお前たちがゆずり受けるのです。
読みきれないほどの書物も
みんなお前たちの手に受け取るのです。
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど――。
世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちにゆずってゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを、
一生懸命に造っています。
今、お前たちは気が付かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のようにうたい、花のように笑っている間に
気が付いてきます。
そしたら子供たちよ、
もう一度ゆずり葉の木の下に立って
ゆずり葉を見る時が来るでしょう。