校長室より

第62回卒業証書授与式 式辞

式辞

 冬の名残が残る加賀の沃野にも、春の力強さを感じる季節となりました。このよき日に、来賓の皆様をお招きし、第62回東和中学校卒業証書授与式を挙行できますことを、心から感謝申し上げます。111名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。卒業証書を受け取る皆さんの顔は、晴れやかであり誇らしげでもありました。

 3年前、皆さんが入学した頃は、新型コロナの真っ只中であり、入学式は新入生と保護者のみで行われました。閉塞感のある社会の中で、緊張感のある入学式であったことを覚えています。そして昨年4月に、ようやく新型コロナが5類に移行し、社会活動が本格的に再開しました。本校においても、授業や部活動・各行事など、ほぼ制限なく行えるようになりました。

 前期生徒会スローガンは、レボリューション 私たちで拓く未来 でした。コロナの呪縛から解き放たれ、思い切って自分たちの力で未来を作っていこう という強い意志を感じました。校舎改築のため、狭いプレハブでの生活が続きましたが、校舎内にはいつも3年生の笑顔があふれていました。その3年生が最も輝いたのが、なんといっても体育祭です。各団で練りに練られたショータイムのダンスは、見るものを魅了しました。3年生を中心とした高いリーダーシップにより、全員が一体となったエネルギッシュなダンスを創り上げることができました。

後期の生徒会スローガンは、英語でThe I。 自分とは・・という問いを投げかけるものでした。後期最大のイベントである文化祭も、それを追い求めるものでした。生徒会執行部が繰り広げる演劇やコーナー企画を通して、自分が何者なのかを考え続けました。いつ答えにたどり着けるかわからない難しい問いですが、自分を、そして友達を再認識するきっかけを与えてくれました。

 行事以外でも、生徒が主体となった様々な取り組みが提案されました。授業での集中を高めるためアンケートを実施し、TOWA4箇条を提案しました。また、全ての生徒が自由に利用できる多目的スペースを設置し、その利用について、生徒と先生方が一緒に考える東和中未来会議を開催しました。そのような創造的な活動の中心にいたのが3年生でした。難しい現状の中においても、自分たちの力で新しい取組を創造する姿には、本当に驚かされました。次年度には新しい校舎が完成し、東和中学校が生まれ変わります。時は流れ校舎は変わっていきますが、皆さんが創り上げた生徒主体の活動は、必ずや引き継がれるでしょう。

3年間の貴重な思い出のひとつが、やはり修学旅行です。昨年春に、制限が緩和されて初めて、広島と関西を巡る修学旅行を実施しました。その中で、平和や歴史や文化など、日常生活では得られない多くの学びや体験をすることができました。ここで、修学旅行後の感想文を一つ紹介します。

 修学旅行のバス内での出来事です。シルバーカートを押したおじいさんが、バスにうまく乗れずに困っていました。その時、友達のTさんがおじいさんを手伝ってカートを乗せてあげました。その後、別の人が、「席を譲りますよ」と声をかけていました。その様子を見て心が温かくなりました。初めて会った人に親切にするのは勇気がいるけれど、1人の親切をきっかけに周りの人も協力し合えるようになり、そのことで心が温かくなるんだと気づきました。

 この感想文を読んだとき、Tさんの勇気ある優しい行動に感激したとともに、その優しさが他の人に伝わっていくことを感じる感性にも驚かされました。行動を起こした生徒、その行動が広がるのを見て心が温まった生徒、3年生の心が大きく成長していることを感じる出来事でした。

 今年1月1日、本来は新年を祝う大切な日に、能登を中心に未曾有の震災に見舞われました。押しつぶされた建物、津波に流された船や港町、寸断された道路など、にわかに信じがたい映像が流れてきました。凍える寒さの中、避難所で暮らす人々を思うと、いたたまれない思いがしました。また、目を世界に転じてみると、紛争や環境問題が各地で起こっています。不安に怯える子供達、行き場をなくした動物たちなど、目を覆いたくなる衝動に駆られます。

 そのような現実を前に、私たちはどう振る舞うべきなのでしょうか。能登の被災地で復旧に携わる若者により地域に活力が戻ってきたこと、戦場で活動する国境なき医師団によりいくつもの命が救われていることを耳にします。では、遠く離れた我々にはどんなことができるでしょうか。

 今、好むと好まざるとに関わらず、世界中が色々なもので繋がっています。インターネット、金融、エネルギー、食料、環境そしてウィルスなど、あげればキリがありません。しかし繋がっている世界だからこそ、遠く離れていてる私たちの力で、社会を変えることができるかもしれません。

 バタフライエフェクトという言葉を知っていますか。蝶々の羽ばたきのような小さな変化の波が、やがて大きな波につながることがある ということを表現した言葉です。社会の課題に対して私たちができることは、ほんの小さなことかもしれません。しかし、誰かの起こした小さな波が地域社会や世界に伝わり、多くの人々を幸せにする大きな波に変わるかもしれません。日本のそして世界中の人々が、不安や紛争ではなく、優しさと思いやりでつながれば、きっと世界は変わります。これからも、もっともっと学び、正しい力と知恵と勇気を身につけてください。そして、その力と知恵を大切な人のために使ってください。勇気を持って、優しさの一歩を踏み出してください。みんなの踏み出す小さな一歩が、未来につながります。あのバスでのTさんの行動のように。

 保護者の皆様、本日は、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。今日で義務教育9年間の課程を修了します。これまで、多くの時間と愛情を、お子様に注いでこられたかと思います。これから先は、未来という道なき道を自分の足で歩んでいきます。希望に満ちた道でもあり、今まで以上に困難な道でもあります。これからも、保護者としてお子様の可能性を信じサポートをお願いします。

 いよいよ旅立ちのときです。東和中学校で学んだことを誇りに思い、家族やお世話になった方々への感謝の気持ちを忘れず、素敵な仲間たちと過ごした時間を胸に刻み、未来に向かって自分の人生を歩んでいってください。皆さんの未来が幸多からんことを願い式辞といたします。

令和6年3月9日

加賀市立東和中学校

校長 亀田 憲一郎