目的
  SGコースの生徒達が進めている課題研究の、研究テーマに関する調査を行うとともに、プリンストン大学やプリンストン高校の学生に対する発表や意見交換を通して、国際的な視点からさらに研究を深めることを目的とする。また、活動全般を通して、英語によるコミュニケーション能力を向上させ、国際人に必要な視野やものの見方を獲得し、国際社会で活躍できる生徒を育成することが目的である。
日程
10/3(月)【移動】

10/4(火)【マンハッタンでの研修】
  ・国連職員のレクチャー      ・三井不動産アメリカのレクチャー(英語)
  ・ウォール街Walking Tour

10/5(水)【プリンストン高校/ホームステイ】
  ・プリンストン高校での授業参加、課題研究プレゼン(英語)

10/6(木)【プリンストン大学/ホームステイ】
  ・プリンストン大学キャンパスツアー
  ・プリンストン大学の日本語クラスに課題研究プレゼン(日本語)

10/7(金)【プリンストン高校→イサカへ移動】
  ・プリンストン高校での授業参加、日本語クラスで授業参加

10/8(土)【エコヴィレッジ・イサカ→ニューアーク】
  ・エコヴィレッジでのレクチャー ・ボランティア活動
  ・住民と昼食交流会       ・課題研究に関する意見交換(英語)
  ・卒業生(由水南さん)と交流

10/9(日)【移動】

10/10(月)到着

研修先及び研修内容と評価
(1)国連職員による講義(研修1日目:10/4(火)午前 ニューヨーク)
 【研修内容
 ・国連職員の丸田容子氏から、女性と女児に対する差別の撤廃、女性の社会的地位の向上、男女間の平等の達成等が「豊かさ・コミュニティ」のあり方にどのような変化を生み出すのかをテーマに講義をいただく。

(生徒の感想)
・一部の宗教国家等では、女性と男性を区別することはむしろ当然であり、そのような社会に完全な男女平等は求められていないということも分かり、とても複雑だと思った。先進国が現在提唱しているような完全な男女平等は、そのような社会にとって必ずしもコミニュテイを豊かにするものではないということを肝に銘じておく必要があると思う。
・イスラム教のスカーフのように宗教が絡む問題はとても難しいと改めて知った。強制的にさせられている行動なのか、それとも女性が宗教的な信仰から自分から行動しているのかは外から見ているだけではわからない。差別撤廃に向け行動を起こさなければならないが、信仰の自由を侵すことも許されないので本当に難しいと思う。高校生の今からできることとして挙げられていた言語取得、情報収集、ボランティア活動を積極的に行いたい。

(成果)
直接自身の研究テーマに関係がない生徒にとっても、新しい知見と視座を得る機会となっただけでなく、物事を多面的にとらえ直すということの重要性に気づき、研究のヒントを得た者も多かった。また、グローバル課題に取り組む方に触れ、生徒の多くは、自らも社会問題の解決に努めたいという意欲が高まったようである。




(2)日系企業訪問(研修1日目 10/4(火)午後 ニューヨーク)
【研修内容】
 ・米国で推進されているLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)認証システムや豊かなまちづくり、グリーンビルディングの普及に対する取り組みについて、三井不動産から英語で講演を聞くとともに、英語で質疑応答や意見交換を行う。

(生徒の感想)
・確かに写真の建造物は近代的で企業としてはエコを心がけていることが分かったが街を歩いていると日本ではありえない程のごみが目についたし、目の前で大量のペットボトルのキャップを道路に捨てる人を見て、企業の意向との矛盾を感じた。大国であるからこそもっと市民の手を借りて市民が意識を高めた方が良いのではないかと思った。そこに日本企業が主体となって努めているのではないかと思う。
・今までに聞くことのなかったシステムについて、英語での講義を聴くのはとても難しく内容が理解しにくかったが、可能な範囲で講師の方の英語を聴き取ろうとすることも一つの経験として良いものだったと思う。講義の内容については、具体的な達成目標を設定したり、ランク付けを行ったりすることは自分たちの課題研究においても有効かつ必要なことだと感じさせられた。何かしらの改善を訴える内容の発表を行う際には、現状がどの程度であるのかということを指標で明確にすると、より説得力のある呼びかけができるだろう。

(成果)
渡航後、初めてのネイティブスピーカーによる英語での講義であり、また、専門的な内容のものであったため、多くの生徒は、内容の理解に難しさを感じていたようである。それでも、なんとか五感をフルに使って理解につとめていた姿が見られ、その後のふりかえりでも、翌日からのプログラムに対する不安の声以上に、気を引き締めて挑戦しようという決意が見うけられた。3月の国連大学での英語でのレクチャーを前に、ほとんど理解できなかったところから英語学習への主体的な取り組みの姿勢が見られていたが、少なくとも、その成果は確実に生徒の中に手応えとしてあったようである。
 また、課題研究については、直接関連する分野を扱っているグループは少なかったものの、レクチャーの中から、自分たちの研究に活かせそうな方法や発想を見出そうとする試みが見うけられた。



(3)プリンストン高校(研修2~4日目 10/5(水)~7(金) プリンストン)
 【研修内容】
・本校SSHと交流のあるプリンストン高校にて、自分たちの課題研究の英語によるプレゼンテーションを実施し、同世代の高校生とディスカッションを行う。
・プリンストン高校の学生の家にホームステイし、現地高校生と共に授業に参加することで、文化や教育の在り方についての日本との相違点を体感し、視野を広げる。

(生徒の感想)
・日本の生徒とアメリカの生徒の大きな違いはやはり積極性であった。生徒はみな挙手制で、思ったことや相手への意見など感じた事なら何でも発言しているようであり、日本に比べてとてもポジティブな姿勢が見られた。プレゼンでは多国籍国家であるアメリカならではの文化や意見の違いについて聞くことができた。中でも5ヵ国語を話す生徒さんはこの研究についてとても興味を持ってくれて、この研究はとても重要なものであるといったような研究の意義について、より深い理解をすることができた。英語でのプレゼンはネイティブの方には伝わらないことが多く、話し方も内容も多くの改善が必要だと感じた。
・食事の時に英語でホストファミリーと会話することが出来た。恥ずかしがらずに積極的に会話に参加し、分からないことは聞き返すことが出来た。日本の文化や生活について大まかには説明できたが、細かい部分が伝えられず悔しかった。

(成果)
アメリカの同年代の高校生と意見交換をし、ホストファミリーと交流することで、異文化を理解することとともに、人としての大切なコミュニケーションのあり方にも気づいた生徒が多かった。また、より深いコミュニケーションには英語力が必要であることを痛感した機会ともなったようである。また、せっかくの機会に自分の殻を破ろうと挑戦する姿が多く見られたのは確かである。




(4)プリンストン大学(研修3日目 10/6(木) プリンストン)
 【研修内容】
・生徒各自の課題研究の英語によるプレゼンテーションを実施し、現地教員や学生の質疑を受け、議論を行う。
・全米で4番目に古く、2人の大統領を輩出している名門私立大学を訪問し、小グループに分かれ英語でのキャンパスツアーに参加し、米国の大学生活とはどのようなものかを質疑応答を通して学ぶ。
・7月に本校を訪問したプリンストン大学の学生達と交流し、生徒自身の将来への夢や、アメリカでのキャリアパスについて英語で語り合う。

(生徒の感想)
・学生とのディスカッションはとても有意義なものとなった。どの大学生も私たちのプレゼンを1回聞いただけで的確な意見をわかりやすい英語で話してくれた。自分の意見をしっかり持ち、自信を持って発言する姿勢を見習わなければならないと思う。
・多くの学生が、都市と田舎の幸福度の差の問題は日本だけでなくアメリカなどほかの国々の問題でもあると言っていた。やはり安全を重視していた。また、コミュニケーションが都会では足りないと私たちは考えていたが、コミュニケーションは都会にも田舎にもあり、それぞれタイプが違うのだという新たな考え方を発見できた。

(成果)
ここでは大学生から課題研究について意見や助言をもらうということが主な内容であったが、的確な意見でヒントを得ることができたことはもちろん、対応してくれた大学生がロールモデルとして進路選択や学ぶ意欲に大きな影響を与えたようである。




(5)エコヴィレッジ・イサカ(研修5日目 10/8(土) イサカ)
 【研修内容】
・自然と調和し、持続可能な生活を目指したコミュニティづくりを実践しているエコヴィレッジの住民と交流し、研究テーマについて意見交換を行う。
・英語による日本文化の紹介を行う。

(生徒の感想)
・課題研究についての交流の時は私たちのテーマをものすごく真剣に考えてくださり、とても内容の濃いディスカッションができた。たくさんの経験を積んでいる方々なので、今までにない意見を提案してくださり、研究にもとても参考になった。また、私達からの質問ばかりではなく、相手からもたくさん質問してくださり、ディスカッションがとても盛り上がった。日本の労働や結婚などの価値観についてとても興味を持たれていて、私たちの意見にすごく関心を持ってくださった。ただ、そのテーマや自分の価値観についてうまく述べられなかったので、英語の勉強はもちろんのこと、社会についてもより関心を持ち、考えることも必要だと感じた。
・エコビレッジ・イサカに移住した人の中には、近年希薄になりつつある住民間の繋がりを求めて、引っ越してきたと言う人もいて、地域コミュニティの希薄化の問題は日米どちらにも言えることだと思った。確かに、規模も小さく各居住区に1つ集会所があり、世帯間のコミュニケーションの取りやすい環境であると思ったと同時に、自分も将来このようなコミュニティで生活してみたいと思った。

(成果)
都会―郊外―田舎と、今回の研修はさまざまなアメリカのコミュニティを経験する最後の場所であったが、豊かさやコミュニティのありかたも多様であることを身をもって感じ、何が大切なことなのかを考える機会となったようである。研究テーマについても、今回は大人と意見交換することで、新しい視点を獲得したと感じている生徒が多い。特徴的なのは、感想の中で、ほとんど英語力について言及していないことである。これはすでに、自らの英語力を意識しなくてもよいほど向上してきたことの証といえるのではないか。

研修全体を通して
(生徒のふりかえり)
〇研究テーマの調査と国際的視点からの考察
・プレゼンの時では毎回自分の意見を求められるので、問題についてよく考えることや、社会のあらゆる問題に関心を持つことの必要性を知った。研修ではいろんな話題について議論でき、知らないことが多く、物事への関心が深まった。

〇英語によるコミュニケーション能力の向上
・アメリカに行く前は、現地の人と自分の英語力を用いて話せるのかという心配や、日本人だからと言って文化の違いから拒絶されるのではという不安でいっぱいでしたが、実際に行ってみると理想通りではなかったけれど、コミュニケーションをとることができ、自分自身の自信につながりました。

〇グローバルな視野や視点の獲得と挑戦できるマインドの養成
・ディスカッションや交流の場で自分の意見を言うことは、自分の存在意義を示すと共に、その場での自分の価値観をも示すことにつながるということが、アメリカの授業風景や実際に自分が交流した中で感じることができました。自分の意見を主張するということは、日本では肯定的に受け入れられることは少ないけれど、意見や論をより深め、よりよい理解をするという意味でとても良いことだと感じたので、これから自分も日本でも積極的に行っていきたいと思いました。

(成果)
 海外研修の主な目的は、課題研究の調査を海外でも行い、グローバルな視点でテーマを捉え直すことであった。各グループが意見交換を行う中で、自分たちが当然と考えていた前提が、そうではないということに気づかされたことが数多く見られた。そうした意味で、自分たちの価値観を相対化し、異文化理解を深める機会となったことは間違いないようである。
 また、英語によるコミュニケーションを必然とする状況に身を置くことで、生徒たちの実践的な英語力は確実に向上したといえる。プログラムの最初は、日系企業の英語による専門的なレクチャーから始まり、困難さを感じるとともに生徒には覚悟が生まれた。その後の高校生、大学生、ホームステイと、英語で何とかコミュニケーションを取らざるを得ない状況が続く中で、慣れとともに、多少正確さを欠いたとしても英語を使って伝え合うことの割り切りが、生徒に自信を与えたようである。最後のエコビレッジでの意見交換の感想では、ほとんどの者は英語そのものについて感想を書かなかったということは、すでにコミュニケーションツールとしての英語が問題ではなくなったことを意味していると推察できる。
 最後に、この研修を通して、明らかに生徒の視野は広くなり、それまで自分の見てきた世界の狭さを痛感することになったようである。それは、もっと学びたいという意欲の向上につながっていると考えられる。また、今回の研修でさまざまなロールモデルと接する中で、挑戦することの素晴らしさを感じ取っていた者も多かったと感じる。
 感受性が豊かな10代に、こうした経験をしたことは、必ずこの後の学びの意欲を高め、大きな志をもって進路を切り開いていくきっかけとなったと確信している。